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奈良庸一(仮名) 某電機メーカー人事部部長(当時)
聞き手:制作社

「素」を引き出し、伸びしろの大きい学生を選ぶ。

──かなりご無沙汰してしまいました。

本当にご無沙汰でした。また話ができるのがうれしいよ。

──確か●●●●●を定年退職されて、関連子会社に出向されたというところまでの消息は聞いていました。その後、どうされていたんですか。

うん、その会社も定年退職しました。

いまは悠々自適の生活なので、こうして日常と違うシュチュエーションで会話ができるのを楽しみにしていたんだ。正直なところ、身体は健康体だから、働けるところがあれば働きたいんだけどね。人手不足が蔓延している状況で、年を取っているという理由だけで働く場が極端に狭まっているのが、日本の労働市場なんだよね。

──この業界も海外メーカーの攻勢にさらされていますが、前職の●●●●●は経営的にはいかがでしたか。

もうリタイアしたので過去形でしか語れないが、正直苦しいね。自分的には結果的にはギリギリの良いタイミングで退職できたと言えると思う。

あなたと仕事していた頃から、同じ業界他社との合従連衡が進み、何とか●●●●●の社名は残っているが、残念ながら在職時の輝きは薄れてきているように思う。

一時期、たとえば●●●●●●●●の分野で業績が急回復したこともあったけど、メーカーに共通して言えることだが、市場があると分かった瞬間、国内外の電機メーカーが同じ分野に新製品を投入してくるんだよ。そこに低価格の商品や新技術を盛り込んだ商品をぶつけられるので、先行者の優位性を長い間維持することはできなくなっている。

現在は電機分野を手広く対象とするのではなく、いわゆる選択と集中の経営方針だと聞いているけれど…。

──ブランド・イメージはいまなお健在だと思いますが。

そうだね。ブランドは大切にしていかないといけない。それこそ、創業以来、先輩方からぼくらが受け継ぎ、後輩に残していける最大の宝物だからね。

ところで、●●●●●というブランドを聞いて、あなたは何をイメージする?

──当然、●●●●●ですね。御社の担当だった頃、●●●●●●●●を社員割引で安く買わせてもらったことがありました。

うん、そうなんだ。でも、いまでもそうかと問われると、かなり難しいね。その分野で良く売れているもののひとつは、何と2,3万円台の●●●だったり●●●●●●だったりする。

最近,さらに●●●●●●●という分野が確立してきたが、海外メーカーが数千円の●●●を発売して結構売れているようだ。主要なチップは日本製の●●●だからクオリティに問題はないし、実際に聴いてみたら悪くないんだよ。たとえるなら、ガソリン車が電気自動車に移行して、参入する企業が一気に増えたような感じかな。

もちろん、●●●●●メーカーとしては高額なフラッグシップモデルを出してはいるが、ハイエンドはハイエンドで競争が激しい。売れるとしても数は少ないだろう。ビジネスとして継続していくためには、ある程度のレベル・価格帯の商品が常時売れ続けてくれないと、やっていけないんだよ。繰り返すけど、高額な●●●●●が少量売れるより、手頃な価格の●●●●●が売れないと、ビジネスは回転していかないんだ。

──隣国の攻勢がある中、日本の電機メーカーの将来はどうなるんでしょうか。

海外メーカーの脅威はあるんだが、それとは別の潮流が日本の電機メーカーを苦境に立たせているように思うんだ。

音楽をレコードやCDで聴く人が少なくなって、音声ファイルをダウンロードして聴く人が増えている状況と通底するような気がする。どういうことかと言うと、パンドラの匣が開いたというか、ブラックボックスが透明化したというか…。つまり、すべての価格構造が明らかにされてしまって、付加価値が付けにくくなってきているように思うんだよ。

高い価格をブランド料として納得してくれる消費者より、余分なマージンとしてしか見てくれない消費者のほうが多くなってきたんじゃないかとぼくは解釈している。直接的な要因はバブル崩壊やリーマン・ショックだろうね。消費者が賢くなったとも言えるのかもしれないが、売る側はたいへんだよ。

──確かに世の中にインターネットが普及し、企業がみな独自のホームページを持ち始めた10数年前は、Webサイトの構築は極端に言えば言い値でした。それは、1ページ・1画面つくるのにいくらかかるか分からなかったからで、いまや素人がテンプレートに沿って無料でつくれる時代になってしまい、わたしたちもどこで収益を得たら良いのか苦労しています(笑)。

●●●●●に限らず、すべての分野で原価や価格構造が分かるようになってしまった。たとえば、生保・損保の掛け金からピザのデリバリー、居酒屋のメニューまで、俗っぽく言うと割高な価格設定がバレてしまった。

価格破壊がデフレにつながり、回り回って給与が上がらない・年功序列が崩れる・能力主義といった現象に現れてきているんだと思うよ。若いうちは成果主義は歓迎だろうが、結婚して子どもを持ち、お金が一番必要な時期に成果主義を導入されるのはツラいよね。人事評価にある程度の年功序列がないと、社員は安心して会社のために頑張ろうという気持ちが希薄になってしまう。

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──新卒採用の話に戻っていただいて、ご自身がご担当だった頃、苦労された点は何でしたか。

一番はいわゆる機電系、電機・電子学科の理系学生の採用人数が十分に確保できなかったことだね。電機メーカーはすべてと言って良いぐらいに、機電系を欲しがっている。理系といっても範囲が広く、年によってバイオとか宇宙工学とかどうしても流行の学科に学生の人気が偏ることが多いんだが、メーカーの基本はいまも昔も電機・電気・電子なんだよ。その技術的な底辺部分のチカラがないと、モノづくりの基盤ができないからだ。

文系は、弊社が人気企業ではなかったので上位校の学生がなかなか集まらなかった。 MARCHクラス以下が主なターゲットだったね。ただ、失礼ながらこのクラスは玉石混交で慎重に見極める必要があった。

──そこを詳しく伺いたいのです。採否の決め手は何でしたか。あるいは、貴社独自の基準みたいなものはあったのでしょうか。

先ほどふれたように上位校学生については数が少ないので、基本的な能力は問題なかったから、適性を見る程度で済んだね。

問題はそれら以外の学生で、いかに面接で「素」の部分を引き出すかに腐心したよ。なぜ「素」を見たいかというと、地の人柄を知りたかったから。たとえば見張っている人がいなくとも、勉強する・仕事するひとっているよね。自分でモラルを高く維持できる人っていうのかな。逆に何度言われても時間にアバウトなひともいるよね。「素」の部分の真面目さ・正直さ・誠実さはすべての言動に現れるんだ。そういう「素」が良い学生を選考するようにしていたな。

学生側も一般的な筆記試験やSPIなどについては十分に対策しているから、いざ面接で本人に会うとSPIの結果でイメージしていた人間像と違う場合が少なくなかった(笑)。

逆に口ベタでも一生懸命、自分の言葉で自分の経験から得た学びや物の見方を話してくれる学生には好感を持ったよ。そういう一見、コミュニケーションが不得手な学生でも、こちらから言葉を添えて話を引き出すと生き生きと話し出すので、ぼくはむしろ完成度の高い学生より伸びしろがあると判断したね。

そういう意味では、本音を言える学生、その言葉が借り物でない学生、何かひとつだけでも良いので光るところがある学生を選考したかな。

──「これは!」と思った学生はどのように引き止めましたか。

理系の学生には工場に連れて行って、同じ大学出身の社員と話をさせたよ。実際の職場環境や雰囲気を見せることで、リアルな就業感がイメージできるようで効果的だった。ぼくらのような人事担当者が本社でいくら語ったところで、あまり説得力はないからね。

文系の学生は弊社のキーマン、幹部になるようなポテンシャルの高い社員に来てもらって、彼を通じて将来の自分の成長を重ね合わせるように誘導したかな。

それでも他社に行きたい学生はしょうがないよね。先に言ったブランド力の違いなんだから、ぼくたち全社員が日常の業務をこなす中でブランド価値を上げていくしかないと思うんだ。

──貴社に限らず、会社選びで学生にアドバイスできることはありますか。

業種業界にあまりこだわらないほうが良いと思う。数10年後にどうなっているか分からないし、定年まで勤め上げるかも分からない。

それより、入社する会社でどれだけスキルアップできるかを考えてほしい。その手立て・仕組み・環境があるかどうか見て、入社してから実際にスキルアップしてほしい。そうすればたとえ会社が傾いても、自分にチカラがあれば何とかなるはずだ。会社を踏み台にするぐらいの気持ちで頑張ってほしいね。もちろん、面接でそれを言っちゃいけないけど(笑)。

──長時間、ありがとうございました。

こちらこそ、久し振りに話せて良かったよ。

※取材したのはすでに退職された元職の方でしたが、「元」を付けると逆に分かりにくいため、話の流れから「弊社」「貴社」と表記しています。

次回は4月13日(月)に予告編を、4月17日(金)に本編を掲載します。


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