snkh_014h6沼田博之(仮名) 素材メーカー人事部部長(当時)
聞き手:制作社

誠実さを以って粘って考え抜く、そして成果を出す──そんな学生が欲しい。

──ご無沙汰しています。もう何年ぶりでしょうか。
その節はお世話になりました。7、8年は経っちゃったかなあ。本当におひさしぶりでしたね(笑)。

──わたしとしても仕事という接点がなくなってしまうと、なかなかお会いする機会がなくなってしまうので、こうして直接の利害関係がない状態でお話しできるのはうれしいです。まだ人事でお勤めなんでしょうか。
実は今年3月に定年を迎えて、いまは非常勤勤務で週に何日か出社して、後輩のサポートをしているんだ。給与は在職時の数分の1程度だから、ほとんどボランティアだよね(笑)。

──貴社の仕事をさせていただいていた時も感じていたことですが、何をしているのかよく分からない会社ですよね。失礼ですが(笑)。
本当に失礼だ(笑)。BtoB だからね。コンビニに置いてある商品をつくっているわけでもないから確かに分かりにくいが、たとえば地面を掘り返してみると弊社製のケーブルがあったり、IT 会社のサーバ室に侵入してラックを引き出せば、弊社製の電源があったりする。まあ、部品屋さんだね。

──たとえばスマートフォンでも、日本では圧倒的に iPhone のシェアが高く世界的にみればお隣りの製品がシェアを占めています。それら中身の部品はほとんど日本製と聞いていますが。
ほとんどとは大げさだけど、大半は日本製だよ。弊社の機器も納入している。東日本大震災時は部品工場が東北にあった企業は生産できなくて、隣国への部品供給がストップしてスマホをつくりたくてもつくれない状況がしばらく続いたよね。
日本ブランドのスマホのシェアが減ったきた時期だったから、少し溜飲が下がったよ(笑)。日本では隣国に対するアレルギーがあるので、商標を大々的に押し出した製品は売れにくいだろうね。こっちとしては、どこに納入しようがスマホの生産総数は大きく変わらないから、どこが伸びようが関係なく安泰だよ(笑)。

──少し真面目な話をさせていただくと、先ほど自社を部品屋と例えられましたが、業界内の競争は激しいと思うのですが、なぜ貴社は経営的に安定しているんですか。
真面目な話は苦手だな(笑)。 たとえると、PC 業界における Windows と Machintosh に似ているかもしれない。Apple が一時業績が落ち込んだ時、Mac ユーザーは Win ユーザーに比べれば相対的には少ないが、一定数必ず存在したよね。いわゆる信者と呼ばれる熱狂的なファンもいただろうが、デザインといった分野では Mac に対する信頼性は絶大だった。
弊社もニッチだけど、その分野を独占的に支配していれば商売は成り立つよ。それから、タイムプルーフという信頼感だよね。多少、高くても絶対に壊れないとか安定して動作するといったことは非常に重要なんだよ。とくにインフラや精密機器分野ではね。万一の故障や不良も許されないんだな。一度でも使っている部品の不具合でシステムダウンしたら、それが銀行の決済システムや JR の交通システムだったとしたら、引き起こすダメージは甚大だ。補償しきれないぐらいの損失だよね。
そうしたトラブルを誘発しないブランドとして弊社には絶大な信頼感がある。「電線やケーブルなら●●●●にしておけ」という顧客ニーズは、先達から引き継いだ財産でもあり後輩に引き継ぐべき唯一無二の絶対的な企業価値なんだ。

──このインタビューの前に貴社の投資家向けの財務を拝見したんですが、景気や経済情勢の変化に関係なく、多少の上下はありますが、少しずつ上昇していますね。
うん。ぼくも持ち株を増やしておけば良かったよ(笑)。超健全企業だよ。ただ、ジリジリとしか上がらないから、投資としてはどうなのかな。資産としては安心だけれど。

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──さて、そろそろ本題に入らせていただきたいんですが。貴社の人材採用についてです。何を基準に新卒者を選んでいたんですか。
社名を明かさなければバレないと思うので言ってしまいますか(笑)。理系出身者も最初の面接はぼくが行ったし、文系はもちろんぼくが担当した。学生にとっては最初の関門なわけだ。そこで一番重視したのは、誠実さだね。
カーネギーのマネジメントは読んだことはあるかな。文系にしても理系にしても総合職を採用するわけだから、採用した学生の中には将来、取締役まで上り詰めるひともいるだろう。リーダーの資質として何が大切かというと、そのひとが本質的に備えている誠実さだとぼくは思っている。
もちろん、筆記試験や適性試験、大学時代の成績があまりにも基準の範囲外だと落とさざるを得ないけれど、普通の成績であれば誠実さを重視した。そういうひとは多少の壁にぶつかっても、ズルせずに正面から堂々と乗り越えて行くもんだよ。何か搦手でごまかしたりひとの目を盗んで不正したりはしない。そうして、着実に成長し成果も上げて行くんだと思う。

──なるほど。いまのお答えこそ正攻法ですね(笑)。その考え方は、沼田さんがひとを判断する時の指標だったんですか、全社的な人材選択の基準だったんですか。
いや、あくまでもぼくの判断基準だよ。会社にはいちおう人材戦略があり、採用すべき人材要件も策定されているが抽象的だ。そこから自分なりに導き出したのが、誠実さということになるね。ぼくの関門を通過しないと以降の選考には進めないから、自ずと成績より人柄を優先した学生が残ることになる。
ただ、全面的に良いかどうかというと少しは反省もあるよ。それは、誠実さの判断だ。何を以って誠実かどうかを判断するかというと面接での受け答えに帰結するんだけど、ぼくは神様じゃないので見落としもある。
良いと思って通過させた人物が入社して、大問題を引き起こして、裁判所から呼ばれたこともあるよ。

──穏やかじゃないですね。
普段の勤怠が悪くてマークしていた社員だったんだが、不祥事をしでかして懲戒解雇したんだ。すんなり辞めてくれれば良かったんだが、地位保全の裁判を起こされて家庭裁判所に会社代表として顧問弁護士と一緒にしばらく通ったよ。証拠はしっかり押さえていたんで、負ける要素はなかったけどね。
詳しい事情はさすがに言えないが、自分のひとを見る目の無さを痛感した出来事だった。まあ、人事はひとを採るだけではなく、その後の労務管理も重要だと思ったね。
それ以来、以前もだったけど、同席した同じ人事部の社員の意見も尊重し、少しでも人格面でヒッカカリがあると感じた学生には、徹底して話をするようにした。同じヒッカカリを感じる部分を手を替え品を替えして質問したりしたね。
学生と初めて面接で会って感じた違和感というか気になる点というか、そういうことを感じさせる学生には必ず人間的な問題が潜んでいることが多い。まあ、経験則だけどね。

──人事の仕事は長い間、経験されてきたと思いますが、他の仕事、たとえば営業や研究開発と何が違いますか。仕事内容はもちろん異なりますが、マインドの部分で。
営業は数字という成果を求められるし、研究職もアカデミックな基礎研究をしているわけではないから商品開発において成果が求められる。
しかし、人事などのバックステージの人間は成果というアウトプットは出せない。では何をするかというと、全社的な支出を削減することだ。たとえば、社員が入っている健康保険料って実は馬鹿にできない額になる。保険料は会社と社員の折半だけど、それは給与明細上での話で実質的には会社が全額支払っている。その健保をもっと安いところはないかとか。また、大昔はタイムカードで出勤・退勤を管理していたが、コンピュータ上で管理すれば、その時はシステム構築で高くつくが中期的には割安になる。
合理化・省力化によって、会社から出る金を低く抑えることが人事などのスタッフ部門の仕事と言えるんじゃないかな。昨年比でこれだけ経費が減ったと取締役会に報告できる時は、気持ちが晴れ晴れするよ。

──この記事を他の会社の方が読むかもしれません。定年まで勤め上げられて、いま現在働いている方に言えることは何ですか。
会社にはいろいろな仕事があって、自分が望まない部署に配属される場合もある。だけど、頑張って3年ぐらいはそこで仕事を身につけて欲しいね。希望しない仕事があるということは、会社にとっては必然性がある仕事であり、そこでは必ずやり甲斐があるはずなんだ。
いろいろ経験して初めて分かるっていうことがあるよね。ぼくもそうだった。長い人生の数年間、我慢するのも悪くはないと思うよ。何か真面目な話になっちゃたね(笑)。

──長時間、ありがとうございました。
こちらこそ、わざわざ来てくれてありがとう。

次回から新シリーズになります。

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